世界の旅人が憧れる、超豪華ホテル

チャーリー・チャップリンは、詰め掛けたベルリン子にズボンのボタンをもぎ取られ、落ちそうなズボンを押さえながらアドロンホテルに駆け込みました。マレーネ・ディートリッヒは逆に、そんなひどい目に合わず、ここで未来の大スターとして発掘され…。そんなエピソードに事欠かない伝説的なホテル、シンボル的存在として名をはせ、適時適所に居合わせることを重んじる人々を常連客とするホテルは、それ自身が文化史の一部といえるでしょう。

ベルリンアドロンは、そうした格調高いトップクラスのホテルのなかでも別格です。ブランデンブルク門のすぐそばに位置し、皇帝ヴィルヘルム2世時代ならではの壮麗な建築によって人目を引くこのホテルには、ハリウッドの大物や人気上昇中のドイツ映画のスターたちが出入りするばかりでなく、創業当時から皇帝や王侯貴族、外交官や詩人、指揮者などが入れ替わり立ち代りやってきました。ヴィルヘルム2世の後援を得て1907年完成したアドロンの戦前の宿泊者名簿は、まるで20世紀前半の世界名士録のようです。比較的歴史の浅い世界都市ベルリンが、こうしてパリやロンドンの最高級ホテルに比肩するグランドホテルを持つことになったのは、レストラン経営で財をなしたマインツ出身のローレンツ・アドロンの功績です。当時として最もモダンで快適な設備をそなえたグランドホテルの完成は、アドロンにとって一世一代の夢の実現を意味していました。ですが、その夢も第2次世界大戦によってあえなく消え去り、のちにホテルは取り壊されます。新しいチャンスがようやくめぐってきたのは89年。ベルリンの壁が崩壊し、ヨーロッパ最古の高級ホテルグループであるケンピンスキーが、アドロン再興に乗り出したときです。こうして97年、厳かに復活を祝ったドイツホテル業界のフラッグシップは、戦後の空白などなかったかのようにその偉大な歴史を引き継ぎ、政財界やショービジネス界の著名人を日々迎えています。

アドロンに似た歴史、アドロンよりもさらに200年も古い歴史をもつもうひとつのグランドホテルが、ドレスデンにあります。その名はタッシェンベルク宮殿ホテル。ザクセン公国のアウグスト強王が、自らの居城の隣に側室コーゼル伯爵夫人のために建てさせた18世紀の宮殿です。タッシェンベルク宮殿は45年2月の大空襲で焼け落ち、壁の一部を残すだけとなりましたが、それからちょうど50年後、昔の設計図通りに復元されました。華麗なバロック様式の輝きをいまに伝えるこのホテルは、同じく昔日の輝きを取り戻したゼンパーオペラやツウィンガー宮殿、フラウエン教会などともに、ドレスデン中心部旧市街の見所となっています。

今年、アドロンとタッシェンベルクの両ホテルは、他の10のドイツの最高級ホテルとともに、ドイツ観光局が展開するテーマ年「Art&Culture in Germany」に参加しています。ドイツの芸術・文化を探訪しようとする旅行者に、拠点として大いに利用してもらおうというキャンペーンです。芸術や文化に関心の高い旅行者は、こうした超一流ホテルの利点――立地のよさ、24時間いつでも行き届いた、しかし押し付けがましくないサービス、それに高い水準のホテルレストランなど、――をよく心得ているに違いありません。

レストランといえば、食文化も立派な文化です。たとえば、ハンザ同盟都市らしいもてなしの心を感じさせるハンブルクの旗艦ホテル、ラッフルズには、グルメごひいきの有名な星つきレストラン「ベルリーン」があります。一方、ライン=マイン地方である程度の地位を自負するひとが、客人を招くときに利用するのはヴィースバーデンナッサウアーホーフ内にあるこれも星つきの「エンテ」。ほかの州都にもオススメのホテルレストランが多くあります。たとえば、ワインセラーの充実ぶりも当然な、「宮廷御用達パティシエ」を抱えるシュゥトゥットガルトホテル・アム・シュルスガルテン。カロリーを気にしながらもあれこれ試してみたくなります。また、ミュンヘンマンダリンオリエンタルには、スター料理人ホルガー・シュトロームベルクが腕をふるう「マークス」があります。

ドイツの最高級ホテルのなかには、いまもグループに入ることなく、オーナー一族が直接経営しているものがあります。フライブルクのコロンビや、ペグニッツプフラウムス・ポストホテルがその代表例です。ワーグナーの町バイロイト近郊にあるプフラウムスは、300年前から現在のオーナー一族が経営してきたホテルで、絢爛豪華なインテリアと見事な演出のグルメイベントによって名を成しました。有名デザイナーがインテリアを担当したスイートには、「パルジファル」とか「クリングゾールの魔法の花園」といったワーグナー楽劇の登場人物にちなんだ名前がつけられています。

ところで、最高級ホテルを経営していくうえで、近年ますます重要になっているのは超モダンなビジネスセンターとウェルネス施設、つまりテンポアップとスローダウンの両極端に関わるサービスです。後者の分野でつとに有名なのは、都会の喧騒を離れたカジノのある高級保養地バーデン=バーデンブレンナース・パークホテル&スパ。豊かな緑の庭園に囲まれ、たびたびドイツ最上のホテルに選ばれてきただけあって、客の要望にきめ細かく応じるビューティープログラムや「4本の腕によるロミロミマッサージ」といったエキゾチックな技法によって、ゲストをどこまでも快い気分にさせてくれます。リラクゼーションの世界も、本当に奥深いものです。